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第一章 「気になるあの人」
(もう3年生かぁ、早いなぁ)
「な〜に花の女子高生が朝から溜息なんてついているのよ」
「そうだそうだ、幸せ逃げんぞ」
「お早う、響子に涼君。最後なのに違うクラスだね、残念〜」
突然掛かった背後からの声を何事も無かったように流す。普通なら驚いても良さそうなところだが、そこは仲間内ってとこだろう。
ここ條真学園高等部では毎年クラス替えを行っている。それで新年度としては登校初日となる今日、新しいクラスが掲示板に張り出されているのだ。
周りの反応も様々で、いつもより少し騒がしい。落胆している者、歓声をあげる者、とにかく冷静な者・・・
「まぁそれでオレらの友情が無くなるわけじゃないんだし」
笑いながら大事なことをさらりと言ってしまう彼、佐伯 涼は私の中学からの友人だ。
「そういう問題じゃないのよ、クラス替えは・・・残念ね、咲月」
そう言った彼女の目は自分のクラスの掲示に夢中で残念そうな雰囲気は微塵も感じない。半ば呆れながらも彼女らしいと思った。
彼女小椋 響子は、家も近所でずっと同じ学校に通っている。俗にいう幼馴染だ。
どうやら心ここにあらずだったらしく、気付けば響子も涼君もいない。キョロキョロと見渡すとすぐ側で涼君が誰かに声を掛けているところだった。
「よぉ、洸太」
「ん、あぁ涼か」
あまりにも場違いな雰囲気に苦笑いを漏らすが、さすがに元級友。慣れているらしい。
「相変わらずテンション低いなぁ。で、お前のクラスは?」
「さぁ・・・」
この返答にはさすがに呆れ果てたのかその場を無言が支配する。あることを思い出した私はその沈黙を破り、声を掛けた。
「あっ、武岡 洸太君だよね?私同じクラスの竹城 咲月・・・出席番号も一緒だからもしかして隣の席かも、宜しくね」
「なにぃっ!咲月ちゃんと同じクラス?しかも隣・・・うらやましい奴」
「そろそろ時間だよ、早く行こう」
いつからそこにいたのか、何か言おうとした洸太君を遮るようにして響子が皆を教室へと促す。
「それじゃ、また昼休みに」
「今日は屋上にしよう、迎えに来るよ」
「了解〜」
教室前、響子たちとの別れ際にいつもの約束を交わす。一応名の知れた進学校であるため、登校初日からしっかり授業を行うのだ。
そのため初日から昼休みが存在する。一緒にお昼を食べる習慣は一年生の頃から変わらない。
教室に入ると、思った通り私たちは隣の席だった。
(コウ・・・)
同じクラスになるのも話すのも初めてだけど、実は入学当初から彼のことを知っていたりする。雰囲気がどことなくコウに似ているのだ。
そう、私の初恋の人に・・・。
「洸太君。ねぇ洸太君、ねぇってば」
舞い上がっていた私は、早速話し掛けるが考え事でもしているのか彼の耳には届かない。
「何?」
やっと届いたと思ったら、今度は素っ気無い返事・・・落ち込みつつも、そんなこと気にも留めていないように装う。
「洸太君でいいよね?!うちの中等部にはいなかったけど、どこ出身?実は・・・」
全てを言い終える前に彼は無言で席を立ってしまった。SHRが始まる直前に戻ってきたので、結局何が悪かったのかわからないまま気まずい時を過ごす羽目になった。
その後の授業も先生の話そっちのけで考えたけど、答えは見つからなかった。
昼休みになって教室で待っていると、響子と涼君がそれぞれ自分のお昼を手にしてやってきた。私も自分のお弁当を手に、一緒に屋上へ向かう。
扉が相変わらず嫌な音を立てる。
キィィ
「今日はあそこのベンチにしよ」
「どこでもいいから早く食べようぜ」
「まったくあんたは花より団子ね」
談笑しながら三人で食べるご飯は美味しい。と同時に少し淋しくもある。これは二人には内緒だ・・・と言っても響子にはバレてるかもしれないけど。
「ねぇ涼君、洸太君って私のこと嫌いなのかな?朝無視されちゃったんだけど・・・」
食事も終わる頃、思い切って私は朝のことを話してみた。
「そんなの咲月ちゃんが気にすることないよ。あいつが悪い」
笑い飛ばすように答えてくれた。
「でも・・・」
真剣になってしまった私を察して、真面目な口調で答えてくれる。
「あいつ元々無口だから誰かと話すことに慣れてないだけだよ。それに・・・どうも昔のことに触れられたくないみたいだよ、俺も詳しくは知らないんだけど」
雰囲気が暗くなり始めたとき、ちょっと怒ったような声が響いた。
「ちょっと私を差し置いて勝手に話進めないでくれる。話がみえないんだけど」
「おっとごめん、忘れてた」
その一言で暗くなり始めた雰囲気はどこかに消え去っていた。その後は予鈴まで他愛のない話で盛り上がっていた。
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴り終わったので、そろそろ戻ろうと準備を始めた時、
ズサッ
扉の方から大きな音がしたのでそちらを振り返る・・・と、そこには彼がいた。
「あっ」
思わず上がった声に一瞬反応するも、何事もなかったかのように背を向けて教室へ戻ろうとする。拒否されているかのようなその背に、私は思い切って声を掛けた。
「あ、あのさっきはごめんね。私ももう教室戻るから、一緒に行かない?」
朝のこともあり声は上擦っちゃうし、きっと今にも泣き出しそうな顔をしていたに違いない。困惑顔の彼が少しぼやけて見えた。
「あぁ、こっちこそごめん・・・」
最後に何か言い掛けたように感じたが、それ以上何も言わなかった。
「じゃぁ私たち先に行くね〜」
ニヤリと笑い、何か言いたそうな涼君を無理矢理引きずっていく・・・やっぱり見透かされたみたいだ。響子には叶わない。
教室まで私の言葉に相槌をうつ程度だったけど、これで少しでも距離が縮まったと思うのは私だけだろうか・・・そうじゃないといいなと思う。
一方・・・
「何で先に戻ってきたんだよ」
意味がわからず無理矢理連れてこられたことに腹を立てているらしい。
「あんたね。少しは気を利かせなさいよ」
「はぁ?どういうことだよ」
「鈍感」
「あ?意味わかんね、ムカつく」
どこまでも純粋な少年であった。
第一章 「気になるあの人」 完
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